書き出し小説
異星人は考え込んでいた。考える時は異星人も人類と同じように沈黙する。人類にはない身体の部位を小刻みに動かすものもいたし、じっと動かないものもいた。停滞している会議の雰囲気を察し、口火を切ったのは意外にも異星人の方だった。
— ニシダ (ラランド) (@mouEyo_Nishida) 2023年3月28日
『異星の商人』より#架空小説書き出し
ラランドのニシダがやっている#架空小説書き出しを私も自宅浪人中にやっていた。図書館で『書き出し小説』という全く同じ趣旨の本を読んだのがきっかけだった。どこに投稿するでもなくメモ帳に書いていた。エモいのは無理で、ひたすらネタに走っていた。特に本来なら言葉遊びで終わるレベルのものを、小説の書き出しの分量に引き延ばすのにハマっていた。大学生になってから、その本の作者がデイリーポータルZで2週間に1回のペースで募集しているのを知り、時々チェックしている。
架空小説書き出しの難しいところは、書き出しっぽさがないといけないところだ。どうしてもなんとなく思いついたしゃれた言い回し集みたいになってしまう。「引きのあるコントないしシットコムのつかみ」をイメージして、いかにして読者を引き込むかを考えるといいのだろう。
書き出し小説 | 天久 聖一 |本 | 通販 | Amazon
私が書いたものは以下のようなものだ。
有史以来、一日だけ、人が誰も死ななかった日があった。
敵意と歯茎をむき出しにした原告団がこちらをにらんでいる。なにもそんなに怒らなくても、と思いながら、私は被告席に着いた。今日は私の裁判だ。
人を二人殺す中で、学んだことがある。それは、必然を装うのは、偶然を装うより簡単だということだ。問題は、必然と偶然の境目をどう見極めるかである。
全編がカタカナで書かれたクイーン「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」の手製歌詞カードが、僕を7年前へ引き戻す。その日、僕は中学3年生で、受験勉強に疲れ果てていた。
史実のナポレオンがそうであったように、「おむつ業界のナポレオン」と呼ばれるその男もまた、一皮むけばただの独裁者である。だがこの独裁者は、その事実をまったく自覚していない。
それは真心と呼ぶにはあまりにもいびつだったが、下心と呼ぼうにもそこにはエゴが欠けていた。しかし、今ならわかるような気がする。あの頃、自分がどんな気持ちで彼女に接していたのか。
最初部屋に入った時点では、どちらがとりつかれた人で、どちらが除霊している人なのか、すぐには判別できなかった。二人とも狂ったように体を動かし、息を切らし、汗を散らしていたからだ。しかしよく見ると、片方の女は、私の姉、すなわち霊媒師だった。
「便秘って『便を秘める』って書くくらいだからね」と彼女はよく言っていた。今となっては彼女のことを思い出すことも少ないが、とにかくよくそう言ったものだ。彼女は便秘に悩んでいた。それは彼女にとって、ある種の呪いのようなものだったのかもしれない。
おんぼろアパートの一室で、首が回らなくなっているもの同士で向かい合ってみた。一方は首振り機能の壊れた扇風機。もう一方は借金で首が回らなくなった人間。残念ながら私は人間だった。扇風機の送る風は、よれた肌着の首元を揺らすばかりで、ちっとも涼しくはなかった。